賃貸物件の退去時に発生する原状回復費用は、不動産オーナーの頭を悩ませる出費の1つです。
しかし、原状回復の内容によってはオーナーの負担ではなく、入居者が加入している火災保険が適用できるかもしれません。
本記事では、不動産オーナー向けに、賃貸物件の退去直前の原状回復に火災保険が使えるかどうかを解説します。
火災保険を利用すれば、修理費用を抑えられるだけでなく、空室対策にも効果的です。
不動産オーナーは、ぜひ参考にしてください。
火災保険は賃貸の退去直前に使えるのか?
結論から先に言いますと、入居者が賃貸物件の退去時に火災保険を使える場合があります。
ただし、入居者が退去直前に申請したら手遅れかもしれません。
保険法第95条により火災保険の申請は、事故日から3年以内に申請する必要があると記載されています。
しかし、保険会社に被害状況の証拠となる写真を提出したり、調査員が現地調査を実施したりする場合もあります。
その場合、退去直前で被害状況が確認できなければ、火災保険の申請ができません。
被害が発生したらできるだけ早く、保険会社に連絡する必要があります。
賃貸の退去直前に問われる原状回復とは?
原状回復とは、借家人が賃貸住宅の賃貸借契約が終了し退去する際に、借りた部屋を「本来あるべき状態」つまり入居時の状態に戻すことです。
どこまで入居者が負担するのか?
賃貸住宅を退去する際に発生する原状回復費の負担について、国土交通省は以下のようなガイドラインを定めています。
賃借人が負担 | 賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損 |
オーナーが負担 | 経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用 |
参照:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
借家人は、故意や過失、通常の使用を超えての消耗や毀損した分の修繕費の負担を求められます。
ただし、借家人に求められる原状回復とは、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではありません。
普通に生活してできた損傷や汚れなどは借家人が負担する必要はなく、オーナーが賃料の中で支払うべきだという判決も出ています。
原状回復に関するトラブル
国民生活センターによると、賃貸物件を退去する際に、オーナーから原状回復費用として多額のお金を請求されたというトラブルが多発しています。
よくあるトラブルの事例は以下のとおりです。
- 賃貸マンションの入居時にルームクリーニング代を支払った際、「退去時のルームクリーニング代は不要」と言われたにもかかわらず、退去時に請求され納得できない。
- 賃貸アパートを退去後、原状回復費用の清算書が届いた。入居時から傷ついていた床等の原状回復も求められ納得いかない。
- 10年以上住んだ賃貸アパートを退去したらクロスの張替えなど高額な原状回復費を請求された。全額支払う必要があるのか。
- 6カ月居住した賃貸アパートを退去した。玄関の壁紙のわずかな傷で全面の張替え費用を請求され不満だ。
- 管理会社の了解を得て賃貸マンションの光回線工事をしたが、退去時に、工事は許可していないと言われ、原状回復費用を請求された。
引用:「賃貸住宅の原状回復トラブル」国民生活センター
退去直前に使える?借家人賠償責任保険・修理費用
借家人賠償責任保険は、借家人が賃貸物件の持ち主であるオーナーに対して、損害賠償責任が発生した場合に賠償する保険です。
借家人賠償責任保険で補償されるのは「火災、破裂・爆発、水濡れ」などを起こした場合に限られ、故意の事故などは補償されません。
修理費用特約は、オーナーに対しての損害賠償責任はないが、賃貸借契約に基づいて借家人が修理費用を負担した場合の修理費用を補償する特約です。
「火災や落雷、爆発などのほか、風災、物体の落下・飛来、水濡れ、デモなどによる破壊行為」などが補償対象になります。
借家人賠償責任保険と修理費用特約の違いは以下の表を参考にしてください。
定義 | 支払い対象の具体例 | |
借家人賠償責任保険 | 大家さんに対して、損害賠償責任が発生した場合に補償される | ・水漏れを発生し、建物に損害が発生した
・揚げ物をしている時に、出火。建物が焼損 |
修理費用特約 | 大家さんに対しての損害賠償責任はないが、賃貸借契約において賃借人の修理費用負担が発生した場合に補償される | ・道路からの飛び石で窓ガラスが割れた
・空き巣の被害にあい、玄関のドアノックが壊された |